ダウン症の特徴

2013年に始まった新型出生前診断のデータが蓄積されてきており、診断で「陽性」だった方々の多くが中絶を選択した、という事実が議論になっています。

 

 

不妊治療と出生前診断 温かな手で (講談社文庫)

不妊治療と出生前診断 温かな手で (講談社文庫)

 

 

ダウン症などの疾患を持った子どもを育てることには簡単なことではありませんし、成人後や両親の死後などを考えると、一生大きな不安と隣り合わせです。一方で、障害者の子ども持って幸せな家庭を築いている方々が世界中にたくさんおり、その可能性を中絶によって消してしまう判断は障害者に関わる方々にとっては目を背けたくなる事実かと思います。

 

これは、どちらの判断が正しい、正しくないという議論にはなりえないということです。最低限必要なのは、染色体異常による疾患がどのようなものであるかを正しく認識すること。その認識を持った上で新出生前診断に臨むことだと考えました。

 

そこで、染色体異常による疾患である”ダウン症”について調べてみました。

信頼できる文献から参照したつもりです。

新型出生前診断に関わる方々、また関心のある方々の参考情報となれば幸いです。

 

ダウン症候群とは

(概要)

ダウン症候群(Down syndrome)は、体細胞の21番染色体が1本余分に存在し、計3本(トリソミー症)となることで発症する、先天性疾患群。かつて蒙古症(もうこしょう)と呼ばれた。

1866年にイギリスの眼科医ジョン・ラングドンハイドン・ダウンが論文『白痴の民族学的分類に関する考察』(Observations on the Ethnic Classification of Idiots)でその存在を発表。

 

(染色体異常)

ダウン症は、21番目の染色体の過剰という染色体異常により、身体にさまざまな奇形が起こる可能性が高くなる先天性の症候群である。ダウン症の染色体異常はほとんどの場合、21番目の染色体が1本多いタイプである21トリソミーである。かつては、蒙古症という表現が用いられていた [日暮 1998:9]。

 

(三大特徴)

大きな先天的特徴が3つある。1つは筋肉の緊張度が低いこと。2つめは知能の発達がゆっくりであること。発達の速度は個人差が大きい。3つめは合併する奇形がさまざまであること。また、低身長、肥満、筋力の弱さなどを伴う場合がある[飯沼 2004:12]。

 

(早期老化)

早期から皮膚などの老化現象が見られ、40歳以降にアルツハイマー病が高確率で起きるとも言われる。平均寿命は約50歳といわれるが、医療技術の発達により、平均寿命が伸びる傾向にある[日暮 1998:3-4]。

ダウン症での痴呆症状の出現率は、35~49歳で8%、50~59歳で55%、60歳異常で75%という報告がある。そのほとんどがアルツハイマー型痴呆である[川崎 2005:19]。

 

(成長)

ダウン症の子どもたちは、成長が健常児に比べ遅いが、成長の仕方は個人差が大きい[日暮 1998:87-93]。家族が積極的に刺激を与えることと、早期の医療・療育・教育などの専門家によるサポートが、ダウン症の子どもたちの成長を促す[日暮 1998:97-107]。

 

(発生率)

現在ダウン症児の出生率は1000人に1人といわれている[飯沼 2004:13]。

 

出生前診断

現在は羊水穿刺(ようすいせんし)により胎児をダウン症かどうか判定できる為、中絶が可能である[日暮 1998:135-138]。羊水穿刺により出生前診断が可能になったため、ダウン症医療は倫理的問題に直面しており、大きな転換期を迎えている[飯沼 2004:17]。

 

(性格)

 ダウン症者の性格は、「人懐っこい」「愛想がいい」「社交的」「陽気」「模倣力に富んだ」などいくつかの共通した特徴を示すことが知られている。しかしながら、人の性格は生まれ持った素質や生活環境など多くの要因が複雑に作用して形成されるものである。このためダウン症児の性格の特徴を染色体異常という生物学的要因のみで説明することは困難である。従って、ダウン症者にはいくつかの共通の特徴が見られるものの、個人によって差があると考えられている[上杉 2005:33-34]。

 ダウン症者の性格の個人差の要因の一つとして、知的発達の程度が考えられる。建川博之が行った調査では、高IQグループ(IQ36~55)では、「陽気と朗らかな」「模倣力に富んでいる」「だれにでも話しかける」「社交的な」などの特徴を示すが、低IQグループ(IQ11~35)では、「おとなしい」「おどけた」「素直な」「正直な」「怒りっぽい」などの特徴を示すことが報告されている。このように、比較的知的発達の良好なダウン症者は、コミュニケーション能力が高く、「陽気で物まね上手」という典型的な性格の特徴を示す場合が多い[上杉 2005:33-34]。

 性格や行動の特徴は、加齢に伴って変化する。池田由紀江らの報告では、18~49歳のダウン症者424名に対する調査で、「動きが少ない」「情緒不安定になることが多い」「注意されると引きこもったり、ふくれたりする」「怒りっぽい」などが多く見られ、加齢に伴いこれらの性格的特徴が増加することが示されている[上杉 2005:33-34]。

 

(急激退行・うつ)

 特に青年期から成人期初期に、意欲や元気がなくなって閉じこもってしまう退行現象といわれる現象が起きることがある。職場、作業所などを休みがちになり、動作・運動、対人関係、行動、身体症状の4領域の水準低下が見られ、痴呆やうつ病と診断されることもあり、原因・治療に関して不明な点が多い[日暮 1998:38,76-77]。

 退行の主な症状は、「動作・行動面での動作緩慢、表情が乏しい、会話の減少、パーキンソン病様の姿勢の異常(前かがみの姿勢、小刻みな歩行)など」[菅野 2005:35-37]がある。「対人面では、過度に緊張があるかのように対人関係が拒否的になるタイプと、相手を意識しないかのように対人関係が不能になるタイプとがある」[菅野 2005:35-37]。また情緒・性格面では、「興味喪失、様々なことに対し頑固ないしは固執傾向、突然の興奮などの情緒不安定」[菅野2005:35-37]が起きる。さらに身体面では、「睡眠障害、食欲の減退、体重の減少、失禁等が起こる」[菅野 2005:35-37]ことがある。

 急激退行にはきっかけがあったと、親や周囲が報告する場合が多い。兄弟の進学や就職によって家族に変化が起こること、高齢化した両親や親類の病気による周囲の慌ただしさ、「頑張らせすぎ」の養育姿勢の長期持続などが、そのきっかけとして挙げられる[菅野 2005:35-37]。

 

参照文献

飯沼 和三

1996 『ダウン症は病気じゃない:正しい理解と保育・療育のために』 大月書店。

上杉 宏文

2005 「性格行動特性」 『ダウン症ハンドブック』 池田由紀江監修、菅野敦、玉井邦夫、橋本創一(編)、pp.33-34、日本文化科学社。

川崎 葉子

2005 「アルツハイマー病」 『ダウン症ハンドブック』 池田由紀江(監修)、菅野敦、玉井邦夫、橋本創一(編)、pp.19、日本文化科学社。

菅野 敦

2005 「記憶力の発達」 『ダウン症ハンドブック』 池田由紀江(監修)、菅野敦、玉井邦夫、橋本創一(編)、pp.35-37、日本文化科学社。

日暮 眞・高野 貴子・池田 由紀江

1998 『ダウン症〈第2版〉』 医歯薬出版。